心の奥に向ける心理療法について

とらわれから解放させる「精神分析的療法」

フロイトが創始した精神分析の技法を用いる心理療法です。患者さん自身も気づいていない、心理的葛藤を明らかにして「とらわれ」 や「こだわり」から解放させることで、体に現れている症状を改善します。
本格的な精神分析は、患者さんが寝椅子に横になり、心に思い浮かんだことを自由に語る「寝椅子自由連想法」で行われますが、日本では椅子に掛けて医師と対面しながら行う「自由連想法的対面法」が主流です。
週1回、50分ずつ面接を行います。しかし、実際問題として時間的・経済的負担が大きいため、あまり一般的な治療法ではありません。症状はそれほど重くはないが、薬を使っても改善されず、患者さん本人が希望する場合、あるいは無意識レベルでの葛藤と身体的症状が強く結びついていると考えられる場合に用いられます。

本来の自分を取り戻す「ゲシュタルト療法」

自分でも気づいていないような問題があると、心身のバランスが乱れて心身症や神経症などが現れ、問題を解決して人間的に成長すれば症状は消える」という考えに基づいた療法です。
まず、「今ここで」自分が感じていること、たとえば「疲れた、休みたい」などの身体感覚や感情に「気づく」 ことから始めます。現代社会では、思考や判断などの知的部分を重視する傾向が強く、身体感覚や感情を抑圧しがちです。そのためにストレスのまっただ中にいることに気づかず、いつの間にか心身症や神経症に陥ってしまうわけですから、「今、ここで」の気づきが重要になるのです。
今の「休みたい自分」に気がついたら、チェア・テクニックなどの技法を使って、「休みたい自分」と現実の「働きたい自分」の矛盾を統合させ、本当の自分を取り戻すようにします。

フォーカシング

胃の圧迫感や重い感じ、不快感など、さまざまな身体感覚に焦点を合わせる(フォーカスする)ことで、心と体の調和を図ろうとするものです。
たとえば、胃の不快感がある場合、無理にその感覚を抑えつけたり、原因を追究したりせず、「過去にも同じような感覚がありましたか」というように、目を閉じた患者(フォーカサー)と医師またはカウンセラー(リスナー)が一緒にその感覚をたどっていきます。見たものや聞いたもの、言葉や記憶などは、正確なようでいて意外といいかげんなことが多いものです。
しかし、身体感覚は、自分が直接感じたものだけに正直で、その感覚を研ぎすましていくと、不快感の原因がだんだんわかってきて、やがて問題解決の糸口を自分で見つけることができます。「無意識のうちに体がキャッチした感覚こそが、真実に最も近い」という考えに基づいた技法で、身体感覚が発しているメッセージを受け止めて活用しようとするh万法です。日本ではまだなじみの薄い技法ですが、短期間で効果が現れやすいという特徴があり、今後は家庭や教育現場、ビジネス界など多方面で利用されるでしょう。

生理反応や光や音に変える

外から刺激を受けたときの心拍や血圧、皮膚温、脳波、発汗、筋緊張などの生理反応を、光や音、メーターなどのわかりやすい形に変えて患者さん自身にフィードバック(戻すこと) し、セルフコントロールできるように訓練する方法です。
たとえば、筋肉の緊張によって起こる筋緊張性頭痛の場合、筋電図で筋肉の緊張度を患者さん自身が見ながら、筋緊張が起こらないように自分でコントロールします。このほか、高血圧、片頭痛、多汗症などの治療に用いられることがあります。繰り返し訓練することによって、機器を使わずに、自分の力だけで反応を調整できるようにするのが目的です。

学習しながら症状を軽減する「認知行動療法」

行動療法では表面に現れた症状だけを問題にしていましたが、思考や信念なども含めた行動を正していくのが「認知行動療法」あるいは「認知療法」といわれるものです。たとえば、乗り物恐怖症という症状がある場合、患者さんには「私は乗り物には乗れない」「不安に対応できない」という誤った認識があります。
そこで、医師は患者さんに質問をしたり、記述してもらいながら、患者さんがその「認知のゆがみ」 に気づき、現実に適応できる認知に変えられるよう指導します。

「森田療法」はあるがままの自分を受け入れる

精神科医・故森田正馬博士によって確立された「森田療法」は、「森田神経質」 と呼ばれる神経症の治療に用いられてきましたが、最近では神経症型自律神経失調症などにも使われています。
その基本となるのは、「事実唯真」という考え方です。神経症型自律神経失調症のように、症状に対するこだわりがかえって症状を強くしてしまう患者さんには、症状を取り除こうとするよりも、あるがままに受け止めて日常生活を送るように指導します。
原則的には、入院または通院によって治療が行われますが、森田療法の考え方を精神の健康のためにとり入れようとする人のための啓蒙喜やサークルなどもありますから、これらを利用するのも1 つの方法です。