やり場のない「怒り」のやり場をつくる

仕事をしていれば、不平不満を言いたくなる場面は無数に訪れます。もっと簡単に「腹の立つ瞬間」と言い換えても構いません。しかし、その瞬間の感情にまかせて怒りや不満を爆発させるのは、人間関係という意味でも、健康を維持するという面においても得策ではありません。

そこで提案したいのが「不平不満も計画的に言う」という習慣です。読んで字のごとく、怒りや不安、不平不満が沸き起こった瞬間に「その思いや内容」を吐き出すのではなく、一旦それを吟味して「いつ、どこで、どのタイミングで、どんなふうに不平不満を言うのか」という計画を立ててから実行するという方法です。

このワンクッションを置くことができれば、とりあえずは交感神経が跳ね上がった状態で不平不満を言うことはなくなります。

1日の最後に「吟味の時間」

さあ、ここからが具体的な方法です。「不平不満は一旦吟味して、計画的に言いましょう」と言われて、「なるほど、これからはそうしよう」とすんなり受け入れられる人はそうはいません。

たいていの人は「それができないから苦労するんだ」と思うでしょう。気持ちはものすごくわかります。私も経験上、腹の立つことに直面したとき、どうしてもその怒りを「その場で」処理したくなります。芽生えた怒りを放出しないと、やり場のない怒りがふつふつ沸々と自分のなかで煮えつづけてしまうからです。

そこで「やり場のない怒り」の「やり場」をつくってしまうという方法す。

やり方はとても簡単です。1日の終わり、仕事が終わる少し前に「吟味の時間」を設けてしまうのです。「吟味の時間」とは「どんなふうに怒りや不平不満を相手に伝えるか」を計画すWる時間のこと。

ものすごく単純な発想ですが、これが意外に感情抑制に効果的です。たとえば、部下がミスをして一気に怒りが沸き起こったたとします。あるいは、何か問題が起こり、心のなかに不安が広がったとします。

このような事態が起こったとき、私たちは「ゴール」(落としどころ) が見えないことに大きな不安を覚えます。「やり場のない怒り」「見えない不安」というヤツです。

その不安定な状況によって、私たちの自律神経は乱れ、血流が悪化してしまいます。すると思考の質が下がり、感情のコントロールがきかない状態のまま、問題に向き合わなければなりません。

しかし、そんな状態で問題に向き合っても、解決策が見つからないどころか、さらに感情が高ぶるばかりです。まして、40代、50代の副交感神経が低下しやすい年代ならば、副交感神経副が下がってしまうと3時間は回復しません。

1つの小さなトラブルが、その日の半分を台無しにしてしまうのです。そんな落とし穴にはまらないためにも、「とりあえずのゴール」を設定してしまう。それが1日の終わりにやってくる「吟味の時間」です。

部下がミスをして「なんだよ!」とあなたは思う。でも、その瞬間に「この間題をどうするかは『吟味の時間』に考えよう」と決めてしまうのです。

人間の思考とは不思議なもので、とりあえず決めてしまえば、一旦は思考を停朋止することができます。言い換えるなら、自律神経が乱れていくのを一旦止めることができるのです。

問題には冷静な頭で向き合う

「吟味の時間」で問題にどう向き合い、どう処理していくかは、もはや重要ではありません。その頃には自律神経のバランスも整い、血流も良くなっているはずなので、その状態でベストな方法を考えればいいだけです。

それでもなお伝えるべき不平不満があれば、「誰に、何を、どのタイミングで、どんなふうに伝えるべきか」、もっとも効果的な方法を冷静な頭で考えてください。

経験上、問題を後になって振り返ると「自分にも問題があったな」とか自省することもしばしばです。

実際にあった些細な例を紹介すると、あるとき私に来客があったので「コーヒーを3つ、紅茶を1一つ買ってきてください」と助手の方にお願いしたことがありました。コーヒー3つと紅茶1つ。じつに簡単なお使いです。ところが、彼が買ってきたのはコーヒー4つ。

その瞬間、「いったい何を聞いていたんだ!」「そのくらい小学生だって間違わないぞ」と、以前の私なら、その場で怒りを爆発させていたかもしれません。

しかし、その場で言うのはあまりに大人げないし、来客にも嫌な思いをさせてしまう。そうやって、問題を「吟味の時間」に放り込んでしまうのです。そして、時間を置いて考えてみると、「彼を信じた私に非がある」と思えてきてしまうもの。

すべ.ての基本は「Don’t believe anybody」なのですから。その大原則を私がきちんと理解していれば、もっとしっかりと彼に伝わる言い方をしたでしょうし、メモを渡すこともできたかもしれません。

いちじばんに些細な出来事ですが、世の中とは一事が万事こんなものではないでしょう。その教訓は私が次に生かせばいいことで、もしその場で彼を怒鳴りつけたとしても、決して良い結果を生むことはなかったでしょう。

普通に生活していれば、怒りや不満を覚えることは数限りなくあります。ですが、その感情を爆発させたところで、たいていの物事は解決しません。それどころか、事態は悪化し、周囲の空気は悪くなり、なにより自分の健康を損ないます。

だからこそ、怒りや不満が沸き起こつたら、その場では黙り、とりあえず「吟味の時間」に放り込んでしまってください。その後「1対2の呼吸」を2分ほどして、水を飲んで、場合によっては空を見て、何事もなかったかのようにやり過ごしてください。

なによりも大事なのは、自律神経を乱さないこと。そして、悩みや問題は自律神経が整ってから向き合うこと。これこそもっとも合理的な「問題との向き合い方」であり、感情のコントロール法です。そしてこれこそ「ゆっくり生きる」極意なのかもしれません。

悩みを形にできればストレスはなくなり安心する

悩みというのは自律神経を乱す大きな原因です。対人関係の問題を抱えていたり、仕事で不安なことがあると、交感神経は高ぶり、副交感神経は下がってきます。

一種の緊張、興奮状態が続いているようなものです。このケースで私がおすすめしているのは「とにかくすべて書き出してみる」という方法です。そもそも、頭のなかだけで考えるという行為には「整理がつきにくく、ループしやすい」という特徴があります。

たいてい悩み事というのは「すぐに解決策が見つからない」、あるいは「解決策はあるけれど、それをなかなか実行できない」という状況に陥っているもの。

いずれにしても「どうしよう?でも、どうすることもできない! 」と無限ループに入りやすい構造なのです。しかし、そのままグルグルと同じことを考えていても自律神経は乱れる一方。

血流が悪くなり、脳が正しく機能せず、感情のコントロールがきかない状況で悩みつづけていれば、思考は悪いはうへ、悪いほうへと落ちていくに決まっています。

形にならないものは不安

そこで一旦思考は切り離し、状況や感情など何でも構わないので、とにかく紙に書いてみましょう。

そうやって「形にすること」がとても大切だからです。上司との問題、取引先からのクレーム、部下との人間関係、家族のこと、子どもの問題、お金の悩みなど内容は何でも構いません。

対人関係に限らず、どんな悩み、問題でもいいので、躊躇や吟味をせずひたすら書き出してしまいます。実際にやってみるとわかるのですが、書き出すのにかかる時間はせいぜい5~10分程度。頭のなかで考えていると30分でも1時間でも延々と考えてしまいますが、そんなにも長時間にわたって書きつづけることなど不可能。

やってみると意外に5分で終わってしまいます。いかに思考がループしていたかがわかるでしょう。そうやって悩みを書き出したところで「解決するかどうか」は、はっきりいってわかりません。無責任なようですが、「悩みが解決するかどうか」はケースバイケースですし、私が関与できる問題ではありません。

ただし、紙に書いて「形」にして、それを第三者的に眺めることができれば、確実に自律神経は整います。これは医者として保証します。

頭のなかで問題が形にならず、ひたすらループしているときは不安ですが、書き出して形にしてしまえば、それだけで少し安心できるもの。

まずはこの「ささやかな安心」を手にしてから、悩みに向き合うことが肝心です。手を動かして書いているときは、あまり深く考えず、思いついた内容を紙に書く作業に没頭してください。
「悩み事を解決するために書く」などと考えると妙なプレッシャーを感じるので、ふかん「とにかく書いて『形』にする」「それを俯瞰して自律神経を整える」というだけの気持ちで手を動かしてみてください。悩み事を解決するには、血流を良くして、脳にブドウ糖をしっかり送る必要があります。まずはその状態をつくつてから、問題と向き合う。それが医学的な見地からいえる、もっとも合理的な方法です。

検証のスイッチで自律神経の乱れを調整する

自分が怒る場面」について触れたので、もう1つ「怒られたときの対処法」についてもご紹介しましょう。

人に怒られる。これも自律神経が大きく乱れる状況です。怒られているとき、人はいろんな感情を抱きます。反省、落ち込み、悔しさ、悲しさなどさまざまな思いが駆けめぐりますが、自律神経の側面からいって「感情を揺さぶられる」のはあまりよろしくありません。

人間は感情的になると交感神経が跳ね上がり、血流ほ悪化し、脳は正常に機能しなくなるからです。

怒られている最中から検証開始する

そこでおすすめするのは「とにかく検証に入る」という方法です。「上司に怒られる」「取引先の人からクレームを受ける」「お客さんから文句を言われる」など多種多様の場面があるでしょうが、そんなときは感情的にならず、即、検証を始めてください。「あっ、怒られる」という状況に気づいた瞬間、とにかくパチッと「検証のスイッチ」を入れてしまうのです。

たとえば、次のような質問を自らに問いかけます。

  • これは本当に自分が怒られるべき問題か?
  • 自分が怒られるべき問題なら、どこが、どう悪かったのか?
  • どうしたら、この問題に対処できるだろうか?
  • 相手が一番怒っているのは、どのポイントか?
  • どうしたら、同じような問題を再発させずに済むか?
  • 自分が怒られるべき問題でないなら、なぜこの人は自分に膿を立てているのか?

など、とにかく状況を分析し、検証してください。もちろん、どんな人だって怒られた後、自分の席に戻ってからならこれらの「自問、検証」をやるでしょう。しかし、それでは手遅れです。ぜひともそれを「怒られている最中」にやってほしいと思っているのです。

理由は明白。一度乱れた自律神経はなかなか元には戻らないからです。怒られることによって交感神経が跳ね上がってしまうと、自分の席に戻り検証しようと思っても、なかなか冷静になれません。「何で、あんな言われ方をしなければならないんだー!」と怒りが沸き起こつてきたり、「どうして、こんな初歩的なミスをしてしまったんだろう」とさらに落ち込むのがオチ。自律神経のバランスが乱れている状態で問題に向き合っても、さらに悪化させるばかりなのです。大事なのは、最初から過度に自律神経を乱れさせないこと。これに尽きます。いわば、その防御策が「検証のスイッチ」なのです。顔では神妙にしながらも、頭のなかは冷静に検証を続けている。相手の感情を真正面から受けとめずに、ひたすら自問を繰り返す。そんな対処法をぜひとも習慣づけてください。

怒りが爆発しそうなときの対処方法

自律神経において絶対に欠かすことのできない「怒りのマネジメント」について考えてみましょう。怒ると血液はドロドロになり、交感神経が跳ね上がり、血管が収縮し、血流が悪くなるという話はもう何度も説明しました。

仕事の面でも、家庭においても健康的にも「怒る」という行為はしないに越したことはありません。多くの人が何かあると烈火のごとく怒りをぶちまけるタイプです。

ですが、怒っているときの自律神経のデータ、血流の状態を目の当たりにして「こんな状態ではすぐに血栓ができて死ぬ」ということを知りました。それだけ「怒り」は体に悪いということを肝に命じておかなければいけません。

歳を重ねると感情の抑制やコントロールができなくなる

怒りをマネジメントするというのは、簡単ではなくむずかしいものです。よく「歳をとって怒りつぽくなった」といいますが、あれは医学的にも本当のW話なのです。

副交感神経のレベルが落ちてくる40代、50代以降の人は感情の抑制がききにくくなっています。そして、怒りを口に出すと、さらに交感神経が高まり、ますます感情の抑制がきかなくなる。そんな悪循環にはまって、周囲にひんしゅくを買うくらい怒鳴り散らしてしまう。あなたの周囲にもそんな人がたくさんいるのではないでしょうか。

怒りをマネジメントするうえで、まずおすすめなのが「とりあえず黙る」という方法です。
「Don’t believe anybody」の精神で、怒りそのものを抑制できればいいのですが、やはりそうもいかない場面は訪れます。そのときほ、とにかく黙る。

「むかついてきた!怒鳴ってしまいそうだ!」と思ったら、まずは徹底的に黙ってくだざい。この「怒りそうだなと自覚する」「そう感じたら、黙る」という流れがとても大切。

人間の怒りというのは不思議なもので「怒りそうだな」と自覚できた瞬間に50%はおさまっているものです。腹の立つことが起ったた瞬間は、瞬時に交感神経が高まります。ですが、「それに対して自分は怒りそうだ」と客観視できれば、その瞬間に副交感神経が盛り返してきます。

その段階で「とにかく黙っていよう」と意識できれば、怒りは徐々に収まり、副交感神経がさらに上がってきます。目の前で起こつている出来事(怒りの発端)をどう処理するかは、副交感神経が高まり、血流が良くなった状態でゆっくり考えればいいのです。

その場で怒鳴り散らしたくなることも多々あるでしょうが、そこは1つ冷静になって、とにかく黙ってください。そのはうがあきらかに健康的ですし、健康な状態(血流が良く、脳が正しく機能している状態)なくして、物事を良い方向へ運ぶことなどできません。

その場は黙り、怒りが収まってから何を言うかを考える。そのくらいのタイムラグをつくる意識を持ってください。

1度乱れてしまった自律神経は回復までに3時間以上もかかる

せっかくなので怒りによって乱れた自律神経の状態が、どのくらい継続するのかも補足しておきましょう。もちろん個人差はあります。

ですが、一般的に、怒りによって乱れた自律神経はだいたい3時間から4時間継続します。表面上、怒りが収まっているように見えても、一度乱れた自律神経はそう簡単別に元には戻らないということです。

3時間から4時間とは、かなりの時間です。もし、朝一番に怒りを爆発させてしまったら、少なくとも午前中は台無しです。集中力、思考力ともに著しくダウンしてしまいますそして、もし1日に2回怒るようなことがあれば、その日は1日無駄になると考えるべきでしょう。

健康にも悪いし、忙しい最中の2日を全部無駄にしてしまうなんて、良いことは1つもありません。リーダーやマネジャーなど責任ある立場にいる人は、当然プレッシャーも多く、たくさんの部下を抱え、怒りたいこともたくさんあるでしょう。

しかし医学的に見て、怒ることで解決する問題はありません。結局は、自身のパフォーマンスを落とし、周囲の自律神経のバランスを乱し、トータルの生産性をダウンさせ、時間を無駄にし、健康状態を悪化ざせるだけで15す。怒りを爆発させるタイプの人は、ぜひ「この事実」を理解しておいてください。

自律神経を整えると、相手の態勢が変わる

誰でも自分の話は「聞いてもらいたい」「理解してもらいたい」と思っています。そのためにもっとも大事なのは「相手が聞く状態になっていること」です。

たとえば、私のところへやってきた患者さんに病状について説明するとします。ところが、その患者さんが不安を抱え、軽いパニック状態に陥っているとしたら、病状の説明などしてもまったく伝わりません。

話をするうえでなによりも必要なのは、相手が落ち着いて、聞く態勢を整えていること。もっといえば、相手の副交感神経を高め、血流を良くすることが、話を聞いてもらう最大のコツなのです。

ときどき、上司が部下に早口でまくし立てている場面を見かけます。指導なのか、指示なのかわかりませんが、はっきりいってあれはまったく無意味です。

双方にとって何のメリットもありません。早口でまくし立てる方は、当然交感神経が跳ね上がっていますから、冷静な判断力を失い、「本当に言うべきこと」を正しく口に出せていない状態です。

一方、話を聞いている(と思われる) 部下のほうも、交感神経が高ぶっているので、情報をキャッチし、咀嚼する準備ができていません。結局は、感情を吐き出しているだけで、何の効果も得られません。

「ゆっくり」は緊張を解く最大の近道

そもそも、自律神経とは周囲に伝染するものです。何かの発表を前に緊張している人がそばにいると、つられて自分も緊張してしまう。そんな経験があるでしょう。

あれこそまさに自律神経(の乱れ)が伝染しているのです。つまり、話を聞いてもらうには、まず自分の副交感神経を高め、その落ち着いた状態を相手に移していく必要があります。

その際に、もっとも効果的なのが「ゆっくり話す」ということ。まずはあなたが話すスピードを意識的に少し落としてみてください。これだけでも「相手との関係」「相手の聞く姿勢」にかなりの違いが出てきます。

「ゆっくり話そう」と意識することがとても大事。その意識が生まれた瞬間から、自律神経は整いはじめるからです。この状態になってしまえば、あなたはすでに落ち着きを取り戻し、その状態は相手にも伝わっていきます。1対1で話すとき、会議で発言するとき、大勢の前で発表するときなど、どんな場面でも話しはじめる一瞬前に、「ゆっくり話そう」と自分に対してつぶやいてください。

そうやって自分に意識づけをして、暗示をかけるのです。それだけで副交感神経が上がり、話すほうも、聞くほうも、多少は緊張がほぐれます。「話のうまい人」というと、早口でベラベラしゃべっているイメージを持っているかもしれませんが、注意深く観察してみると、本当に演説のうまい人、人を説得するのが得意な人はど「大事なことはゆっくり」話しています。

感情や思いを発散したいならともかく、内容をきちんと伝えたいなら、ぜひゆっくり話してください。これこそ医学的な見地から見たコミュニケーションのコツです。