忙しい中でも生産性をあげる方法がある

2024/10/25

世間には、とにかく忙しい人がたくさんいます。しかし、この「忙しい」というのは自律神経を乱す要因になりやすいので注意が必要です。

なかでも40代、50代の人は、若い頃に比べて副交感神経のレベルが下がり、体力、集中力ともあきらかに低下しています。その一方で、仕事の質と量はどんどん上がっています。まずはこのギャップをなんとかしなければなりません。体力が落ちているのに、仕事の質と量が上がれば、当然無理が重なります。

たいていの人は「忙しいのは仕方がない」「責任があるのでやるしかない」という具合に、何の解決策も持たないまま精神力で乗り切ろうとします。
しかし、それではいつか体が壊れてしまいます。一定の年齢を迎え、仕事の質と量がアップしてきたら、もう少し合理的な方法を見つけ、このギャップを埋めなければなりません。

忙しいときこそ「ゆっくり」が基本

さて、どうしたらこのギャップが埋まるのか。とても興味深いところです。ごく当たり前の答えを出すなら「生産性を上げればいい」ということ。そんなことをいうと、「どうしたら生産性が上がるのか、それを教えてくれ!」とあなたは思うでしょう。

この答えはあります。「可能な限りゆっくりやる」ということです。忙しいときに「ゆっくりやる」とは、なんとも逆説的な感じがします。たいがいしかし、本当に仕事ができる人は、大概いつもゆったりと仕事をしています。

「忙しい、忙しい」と汗を飛ばして走り回っている人のほうが、かえって生産性は低いものです。

医学的な見地からいっても、忙しいときに慌てるのは一番の愚行。72ただでさえやるべきことが山積みなのに、急いでしまうと交感神経が上がり、血流は悪くなり、脳に十分なブドウ糖が供給されず、判断力は落ち、感情のコントロールはきかなくなり、人間関係は悪化し、ひいては成果も上げられない。まさに究極の悪循環。大量の仕事を効率良くこなしたいなら、「忙しいときこそゆっくり」という意識が大切です。

イギリスの名医から学んだ「ゆっくり」の極意

この「ゆっくり」の象徴として、私は「文字をゆっくり書く」ことを常に心がけています。IT化が進み、ペーパーレスな世の中になったとはいえ、ちょっとしたメモをとったり、サインをするなど文字を書く場面はいくらでもあります。そんなとき、つい慌てて、殴り書きをしていませんか?

ゆっくり書いても、速く書いてもわずか数秒(かかっても1分)の違いしかないのに、なぜか慌てて乱暴に書いてしまう。ぜひこの機会に、自分が書いているメモやサインを見直してみてください。まさにその「乱れ具合」があなたの自律神経の状態。

字そのものがきれいかどうかは問題ではありません。ゆっくり、ていねいに書かれているかが重要です。

以前、イギリスの病院に勤めたことがあるのですが、そこでマーク.ストリンガーという一人の医者に出会いました。世界中から優れた医者たちが集まるなかでも、頭1つ抜きん出ているとても優秀な医者でした。私は彼にさまざまなことを教わったのですが、「字をゆっくり、ていねいに書く」というのもその1つ。

彼は優秀な医者でしたから、日常はとにかく忙しい。外科医が忙しいのは世のそろ常ですが、その外科医たちが口を揃えて「マークは忙しい」と言うほど、本当の激務を彼はこなしていました。しかし、そんなにも忙しく慌ただしい毎日でも、なぜだか彼は穏やかで、いつおだただよものんびりとした雰囲気を漂わせていました。

今思えば、どんなときでも彼の自律神経はバランスがとれ、副交感神経が高い状態にキープされていたのでしょう。あるとき私は、彼の書いたカルテを見てびっくりしました。通常、医者の書くカルテといえば、読めるか読めないかの文字で、乱暴に書き殴っているものですが、彼のカルテはまるで違う。本当にゆっくり、ていねいに書かれていました。

彼の「穏やかさ」の秘密を垣間見た気分でした。それから私も「文字はゆっくり、ていねいに」を徹底して心がけるようになりました。

急ぐだけではかえって生産性はダウンする

どんなに忙しいときでも「ゆっくりと文字を書く」という意識を持っていると、自然に自律神経は整います。そして不思議なことに、ゆっくり文字を書けば、それだけ達成感も得られます。

雑多な書類仕事でも、ゆっくりていねいに文字を書いていると、乱暴に慌ててやったときよりも「おお、終わった」という達成感が得られるのです。私の経験上、急いだところでたいして時間は短縮できません。そのほんのわずかの差のために自律神経を乱し、血流を悪くして、仕事の効率や集中力を低下させてしまうのはあきらかに不合理です。

ぜひとも「忙しいときほどゆっくり」を意識してくだざい。余談ながら、私はゴルフバッグを送る伝票を書くときでも、とにかくゆっくり記入することをを意識しています。どこかの欄に丸印をつけるときも「マール」と心のなかで言いながら書くほどの徹底ぶりです。

40代、50代になってきたら、忙しいときに「仕事の速度を上げよう」としても、逆に生産性は落ちていきます。どうあがいても、それが私たちの現実です。合理的かつ医学的に生産性を上げるには、副交感神経を高める必要があります。言い換えるなら「本当の健康体」をつくることで、生産性を上げるしかありません。

忙しいときに急ぐのは不健康に近づくだけ。結果、生産性を落とすだけ。そのことを決して忘れないでください。