自律神経は冷やさない

2019-06-05

自律神経と体温

ポカポカと陽気のいい日は心も明るく元気で、「今日も張り切っていこう」とやる気に満ちています。反対に、冷えて寒い日は身も心も縮こまって、「億劫だなぁ」と、やる気がなえてしまいます。

体温と気分、体温と心の状態にも、同じような関係性が見られます。なぜなら、体温の変動と自律神経の働きには深い関係があり、体温が下がると自律神経の働きが低下するからです。

体温は周期的に変動していて、夜中の午前2~4時ごろが最も低く、明け方に向かって徐々に上がっていきます。起床後も上がり続け、午後2~6時ごろ最高になります。
それからは徐々に下がる、というリズムです。自律神経の働きは、この体温の周期的な変動を、少し遅れて追いかけています。

体温が高くなると、自律神経の働きが徐々に活発になり、反対に体温が下がると、自律神経の働きも徐々に低調になってしまう、という相関性があるのです。

この「体温が下がると自律神経の働きも低調になる」という相関性から見て、ふだんから体温が低い人は、自律神経の働きが低調だと推測できるのです。

自律神経には、体や神経の働きを活発にする交感神経と、反対に体や神経の働きを抑制する副交感神経があります。この2つの神経が、必要に応じて優位性を切り換え、内臓や内分泌腺などの働きを自動的にコントロールしています。

人間には、精神的なトラブルなどのストレスがあっても、つねに心身を一定の状態に保とうとする「ホメオスタシス」という機能があります。ホメオスタシスをになっているのも自律神経ですから、自律神経の働きが低調だと、ストレスにも弱くなると考えられるわけです。体温の周期変動による最低体温と最高体温の差は0.5~1度ですが、1度の温度差がもたらす影響はかなりのものです。

たとえば、ふだんの自分の平熱から急に1度体温が上がると、一時的に頭がボーッとして仕事や家事にもさしつかえるのではないでしょうか。

なぜ冷えは万病のもとになるのか?

ストレスが加わる→自律神経の働きが低調になる→ストレス耐性が弱くなる→自律神経の働きがいっそう悪くなる→ストレス耐性がますます弱くなる…という負のスパイラルに入ってしまうと、その影響は体温にも及びます。自律神経は体温調節をつかさどっているからです。

ストレスが続いて体温調整がうまくいかなくなると、体のあちこちに悪影響が出てきます。私たちの体内の酵素の活動が最も活発になるのは、体温が36.5度以上のときです。また、血流や臓器の機能が最大化するのも36.5度以上といわれています。自律神経は、1日の体温変動のなかで、酵素や血流、内臓が活発に働くように体温を調整しています。それがうまくいかなくなるのですから、体に悪影響が出て当然なのです。「ストレスがたまると自然治癒力が弱まるようだ」と感じることはないでしょうか。

それも、ストレスによって体温調整がうまくいかなくなった結果だといえます。「ストレスで食欲がない。体がだるい」と感じることもしばしばだと思います。それも、体温調節がうまくいかなくなって血流がとどこおり、内臓が不活発になった結果です。

「ストレスは万病のもと」といわれる通りなのです。私たちは体温が上がる(熱が出る)ことには敏感です。体が不調だと、まずは熱を測ります。「熟はないのに、食欲がない、体がだるい、自然治癒力も弱まった気がする」という場合は、低体温になっていることがほとんどです。
だから、「冷えは万病のもと」といわれるのです。低体温にも、もっと気づかう必要があります。

うつと自律神経失調症

自律神経の働きが、はなはだしく低調になると、自律神経失調症につながっていきます。自律神経失調症とは、「種々の自律神経系の不定愁訴を有し、しかも臨床検査ではけんちょ器質的病変が認められず、かつ顕著な精神障害がないもの」だと日本心身医学会は定義しています。

わかりやすく身体症状をあげると、倦怠感、疲れやすさ、食欲低下、不眠、浅眠中途覚醒(すぐ目が覚める)、朝起きるのがつらいなどといったことです。
精神症状をあげると、不安、落ち込み、イライラ、集中力や注意力の低下、やる気がなえる、ちょっとしたことが気になってしまうなどです。自律神経失調症の症状と、うつの症状はかなり共通部分が多いことがわかります。こういう症状があるのに、これといった原因が見つからないとき、自律神経失調症と名づけています。

なお、「不定愁訴」とは、どこが悪いわけでもないのに、いつもだるくて疲れやすい、頭が重い、不安感やゆううつ感がある、突然涙ぐむなど精神的な不安定といった症状をさします。これも、うつとよく似ています。不定愁訴は手足の冷えがともなうことが多いのですが、それもうつとの共通点といえるでしょう。

体温が下がると自律神経の働きが低調になり、自律神経失調症に似た症状があらわれ、それをうつだと感じたり、そこからうつが始まったりすることが多いのです。

脳内物質が凍えてしまう

脳科学の成果からも、低体温とうつとの関係が見えてきました。ベータ体温と、うつに関係の深い脳内物質であるセロトニンやβエンドルフィンなどとが相関していることがわかってきたのです。とくにセロトニンは重要な脳内物質で、うつはセロトニン不足が原因の1つだとされています。うつの人の脳は、セロトニンが分泌されにくくなっていたり、あるいはせっかく分泌されたセロトニンを神経細胞が受け取る働き(受容)が低下している傾向が見られるのです。

このため、抗うつ剤の多くがセロトニンを分泌させたり、受容しやすくしたりといった調整にかかわるものにななっています。しかし、抗うつ剤に頼らなくとも、セロトニンの分泌を活性化する簡単な方法があります。その1つが、朝の太陽を浴びることです。

もう1つは、リズミカルな運動をすることです。朝の太陽を浴びることは、体温の周期変動をうながして上昇させます。運動が体温を上げることはいうまでもありません。体温を上げればセロトニンが盛んに分泌されるという単純な関係ではありませんが、相関関係は深いわけです。

また、セロトニンが不足すると、脳の体温調節機能がうまく働かなくなり、低体温になります。うつの方に低体温が多いのは、脳のメカニズムからも解明されているのです。

また、体温が高くなると、神が与えた快楽物質といわれ、幸せな気分にしたり、疲れを忘れさせてくれる脳内物質であるβ-エンドルフィンの分泌が盛んになることも知られています

うつといえば「社会環境」「ストレス」「脳内物質」「本人の性格」といった原因を連想するように刷り込まれてきています。これら4つの要因は間違いではなく、原因としてあるでしょう。ただ、これらの要因のさらに底にあるもの、あるいは要因を包括するものとして、「冷え」が存在することを確認しておきましょう。

自律神経失調症の主な原因となる精神的ストレス