うつは変化している

2023-01-25

昔は、うつになる人は少なかった

ここ最近のうつの急増ぶりは、異常なほどです。この10年あまりで、なんと3倍近くにまで増えています。厚生労働省が3年ごとに行なう「患者調査」によると、患者数1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいでしたが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加しています。

「患者調査」は医療機関を受診した患者数のデータです。うつなどの心の病は受診率が低く、受診者数は実際の患者数の25% 程度といわれます。つまり、実際にうつに悩んでいる人は、300万人近くいることになるといってよいでしょう。

これに、操うつ病(双極性障害) や気分変調症などを含めた気分障害患者全体になると、どれだけの数になるか、恐ろしい気がします。

細菌やウィルスなどによる感染症ではないのに、10年間で患者が3 倍になることなど、これまでの医学常識では普通、考えられません。なぜ、こんなに増えてしまったのでしょうか。

社会環境の悪化は、たしかに原因の1つです。リーマンショックに端を発した世界的大不況は、先が見えないスパイラルに陥っています。厳しい国際競争で、人は減らされ仕事は増える職場がほとんどです。会社は人間の心を無視するかのような要求を出し、ノーをいえば失業が待っているうえ、再就職の道は狭いのが現状です。

これでは、むしろうつになるのが、当然かもしれません。しかし、時間をさかのぼれば、もっと苦しい時代がたくさんありました。深刻な不況は何度もくり返されてきましたし、戦争や極度の貧困なども、そんな遠い昔のできごとではありません。

しかし、そうした時代も、うつはこれほど多くはなかったのです。そう考えると、社会的な要因は、たしかに、うつの原因になりますが、ここまで急増した原因は、それだけではないことがわかってきます。

現代社会特有のなにかが隠れているに違いありません。うつ急増の本当の原因を解明すれば、的確な対策を打つことができます。それは、自殺者の増加や、うつによる社会的損失に悩む現在の日本にとっても、重要です。

各方面で研究が進められているなかで、着目したのが、いままでくり返し述べてきた、「 うつと冷えの関係 」でした。毎日、医療現場で長年、数多くの患者さんと接してきた実体験が、私に「冷えを甘く見るな!」と訴えているように思えてなりません。
そして、体や心を温める方法をおすすめすると、実際に驚くほどの効果があらわれるのです。冷えを解消すれば、うつの急増にも歯止めをかけられると確信しています。

新型うつの登場

うつそのものも、大きく変わってきています。最近のうつは、新型うつなどと呼ばれ、落ち込みや無気力などの気分障害に加えて、息苦しさや胃痛、頭痛などの身体症状がともなう傾向があります。

また、「まじめすぎて」「几帳面だから」うつになるといった性格による偏向も薄くなり、だれもが、いつでも、うつになるように変わっています。そうなったのも、この10年あまりのことだと感じています。

それ以前のうつは、まず、なにをするにも気分が落ち込み、しだいに無気力になって抑うつ状態が深まっていくケースがほとんどでした。ただし、重い症状が長く続くことはまれで、「3ヶ月もすればよくなりますよ」と、医者はよくいったものでした。一方、新型うつは、身体症状はともなうようになったものの、精神症状は比較的軽く、デブレッション(うつ) とは呼んでいますが、神経症なのか、うつなのか、人格障害なのか、わからない方が増えています。

身体症状としては、息苦しさや胃痛、頭痛のほか、吐き気、めまい、だるさ、疲れやすさ、便秘、下痢、おしっこが近い、じんましんが出る、円形脱毛がよくできるなど、自律神経系の症状がよく見られるようです。

新型うつと従来型のうつの異なるところ

これまでのうつと、新型うつの違いは、ほかにもあります。これまでのうつは、と大きな挫折をしたことが引き金になる場合がよく見られましたが、新型うつは、小さな心理的ストレスが慢性的に続いているうちにだんだまわたん症状がつくられていく場合が多いのです。

まるで「真綿で首を締められる」ような感じだといいます。たとえば、春に就職してストレスがたまり始め、秋ごろから会社に行けなくなるというケースも非常に増えています。まだ、社会人として深刻な挫折を味わうまえに、うつになってしまうのです。

また、これまでのうつは、「自分には生きている価値がない」と訴えるなどの自責傾向が強かったのですが、新型うつは「自分はこんなに苦しんでいるのに、周囲はわかってくれない」などと、周囲を責める他責傾向のほうが強くなっています。そして、症状の訴え方がステレオタイプ(紋切り型)で、医師の所見よりオーバーです。

さらに、これまでのうつは、あらゆることにやる気を失なうのが特徴でしたが、新型うつは、そうではありません。仕事はやる気にならないけれど、ゲームなら夢中になれるというように、意欲に極端なムラが出るのです。感情のムラも目立ちます。

昨日は意欲的にやれたことが、今日はやる気になれず、そんなできない自分に傷つき、悩むのです。このように、新型うつは、周囲から見たら、わがままで、どう扱っていいかわかりません。でも、本人はひどく傷つき、苦しんでいるのです。

なんでもない他人の言葉や行動に深く傷つき、突然泣きだすなど、感情のコントロールがきかなくなってしまうのです。うつの症状には、1日のうちに軽くなったり重くなったりする「日内変動」があります。これも変わりました。

これまでのうつは「午前中は最悪だが、夕方から夜になると症状が軽くなる」のが定番でした。新型うつでは、これが逆転し、「午前中は症状が軽いが、午後から夕方に向けて、とにかく疲れやすく、やる気がうせてしまう」というケースが多くなりました。

うつにつきものの睡眠障害も逆転しました。これまでのうつは、朝早くに目が覚めてしまい、それからは眠れないものでした。しかし、新型うつは、朝なかなか目が覚めません。逆に、夜は寝つきが悪く、「入眠障害」を訴える方が多くなっています。

新型うつの症状のチェック

これまでのうつにも、新型うつにも共通するのは、いつも大きな不安を感じていることです。しかし、新型うつでは、「私は不安でたまらない」と訴える人ばかりではなくなりました。
息苦しさ、イライラ、過食や過眠、拒食や不眠など、不安がさまざまな身体症状に形を変えて、あらわれることが多いのです。

自分や周囲にうつの症状がある方は、自己チェックしてみるといいと思います。先にふれたように、これまでのうつは、症状は重いものの、比較的短期間で寛解する(症状がほぼおさまる)という安心感が医師にはありました。

ですが、新型うつは、症状こそ、これまでのうつに比べて軽めであるものの、寛解までに時間がかかりがちです。5~6年かかる人がまれではありませんし、
なかには10年程度の治療を要する方もいます。抗うつ薬が効きにくいことも多いのです。そういう新型うつが増えているからこそ、なおさら精神科医療にたずさわる私たちには、どううつと向かい合い、どう治療したらよいのかという問題が、ずしりと大きくなっているのです。

このように書いてくると、お気づきのように、新型うつには、その根っこに冷えが大きく関係しているとしか私には思えないのです。したがって、冷えをなくし、体と心をじんわり温める方法は、新型うつには特に、また、これまでのうつにも、きわめて有効だ思います。

うつの症状チェック

精神症状

  • これという理由がなく気分が落ち込み、悲しい
  • 不安感がある
  • 焦燥感がある
  • 集中や判断ができない
  • ものごとを考えるのがめんどうだ
  • 記憶力が落ちた
  • 意欲や自信がなくなった
  • 根気がなくなった
  • 口数が少なくなった
  • 人と積極的に会いたいと思わず、服装もどうでもよくなってしまった

身体症状

  • 寝つけず、ちょっとした物音で目が覚めてしまう
  • 朝、早く目が覚める
  • 肩、首などがこりやすい
  • 目が疲れる
  • 頭が重い
  • 体が鉛になったような異様な疲れを感じる
  • 食欲がなくなった
  • 性欲がなくなった
  • 笑わなくなった
  • 便秘・下痢をするようになった

自律神経症状

  • 吐き気がする
  • めまいがする
  • 理由なく動悸が激しくなる
  • 胸が締めつけられるような感じがする
  • 微熱がでる
  • じんましんが出る
  • 円形脱毛症になった

自分にあてはまる項目の○印をつける。○の数が、精神症状、身体症状にそれぞれ3つ以上、自律神経系症状に2つ以上ついたら、新型うつの可能性があると考えられる。