現代人は、ストレスと冷えのダブルパンチで自律神経が乱れている
ぬるめのお風呂に30分入って調子がよくなる
「体を温めるように意識しはじめて3ヶ月。どんよりと心身を苦しめていた落ち込みが減り、人に会う気力もわいてきました。今日はことに気分が明るく、「資格を取ろう」「勉強をしよう」という目標が立ったのですよ。
これまで「自分は、いらない人間なのではないか、自分なんか、いなくなったほうがいいんじやないかと考え、泣いて泣いて、泣き続けた日もあった」というほど、うつに悩み病院を受診して、抗うつ剤を飲んでも、いっこうに好転しない。そんなある日、ご家族にひきずられるようにして、セミナーに連れてこられたといいます。
私は以前から、うつの方や、気分が不安定になりがちな方、ストレスが重い負担になつている方などを対象に、毎月、セミナーを開いています。そこでいつもお話するのが「体と心の冷えが、うつの大きな原因になっている」ということです。
そして、体と心の温め方、とくに、これまで指摘されることが少なかった「体を温めるうつ対策」についてくわしく説明しています。それを実行した方のほとんどが、みるみる症状が軽くなってくるのには、この私さえ驚くほどです。
この方は、ぬるめのお風呂に毎日、長時間入るという方法を実行に移しました。その結果、いまでは抗うつ剤も不要になり、真っ暗に見えていた未来が明るく開けて きたといいます。一度も診察をしたことのない、ただ私の話を聞いて実践しただけの方からそんな報告をいただき、私は「うつは体を温めればラクになる」という確信をいっそう深めています。
現代人の冷えは異常
うつは近年、急速に増えています。原因は、よく、「世界的な不況だから」「競争がますます激しくなってストレスがきついため」「脳内物質のアンバランス」「本人の性格」などといわれます。たしかに、それらも原因ではあるのです。
でも、もっと大きな原因が見落とされていると、私は思います。それが「冷え」です。現代人の体は、はてしなく冷えています。現代人の冷えの一番の原因はストレスです。ストレスは、それ自体がうつの重要な原因となりますが、同時に体を冷やすことによって、うつを悪くしているのです。
冷えのつぎの原因は、食です。冬でも、「とりあえずビール」「アイスクリームが食ベたい」と冷たいものを通年で口にしています。あるいは、以前は温かいお茶が出ていた場所で、いまはペットボトルの冷たいお茶が出るようになっていませんか。
住環境も問題です。エコロジー、省エネルギーといいながら、ガンガン冷房をきかせたオフィスや商店がまだまだ多すぎます。ファッションがそれに追い打ちをかけます。若い女性は肩や胸を大きく出し、冬でもミニスカートにナマ足だったりします。
男性も、ズボン下やアンダーシャツを嫌う人が増えています。忙しさにかまけて湯船で温まらず、シャワーですませるといった生活習慣も、知らず知らずに体を冷やしています。さらに、運動不足。体温の40%を生み出す筋肉運動が足りないのでは、温かい体は遠ざかるばかりです。
男性には、「冷えは女性のもの」と誤解して、対策をとらない人が多く見られます。しかし、男性には冷えが多いのです。ただ、あらわれ方が違うだけです。たとえば、汗っかき、暑がり、体がすぐにほてるといった人は、冷えとは正反対の体質だと思っしんているでしょう。しかし、違います。実は、これらは、体の芯が冷えていることを示しているのです。
30~40代の男性に、とくにうつの増加が目立つのは、冷えに対して無防備だからではないでしょうか。体の冷えが心の冷えを誘発して、あるいは体の冷えと心の冷えがかけ算になって、うつが増えているというのが、クリニックで長年、患者さんに接し続けてきた私の実感です。不況や競争社会などで社会が冷え冷えしていることにばかり目を向けず、心身の冷えを改善することが大切です。
冷えのスパイラルを抜けよう
夏は涼しく冬は温かい理想の暮らしを手に入れたのに、それがかえって心身の健康を保ちにくくしているのは、なんとも皮肉な現象です。でも、考えれば、私たち人類の500万年とされる長い歴史で、冷房や、夏でも冷たい飲食物が行き渡る環境が実現したのは、ほんの最近の50~60年のことでしかありません。
たとえば自律神経から見ても、これは異常な事態です。500万年の問、私たちの自律神経は、寒いときは体内でエネルギーを盛んに燃やし、暑いときは汗をだらだらかいて体温を下げようとするなど、自然環境に即した生物としての人間の機能をつかさどってきたのです。
しかし、最近50~60年の衣食住は、自律神経がとまどうようなことだらけです。自然のなかで暮らしていたころに比べると、私たちは、生物として不健康になっているということを自覚する必要があるでしょう。現代の快適な文明を拒否しようというのではありません。
ただ、現代の暮らしは生物的には不自然であり、心身の変調を招きやすいといいたいのです。ただでさえ、私たちはストレス過多の暮らしをしています。ストレスと自律神経の関係は、自律神経の働きが弱まるとストレス耐性(ストレスをはね返す力)が弱まり、すると同じストレスを過剰に感じるようになって、ますます自律神経の働きが悪くなる…という負のスパイラルになっています。そのスパイラルを加速する要素を注意深く見つけ、ひとつひとつ改善していくのが、うつの急増時代を生き抜く知恵です。
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