自分の本年がわからなくなってしまっている人は

子どもの自分とおとなの自分

「自分がしたいように、伸びやかに振る舞ったほうがいい」とアドバイスすると、「自分が本当はどうしたいのか、よくわからない」という答えが返ってきてしまうことが多々あります。

自分の本音がわからないのは、長いこと、自分自身の本当の声を押しっぶしてきたからです。まず、自分自身を解き放つことから始める必要があります。
自分が本当はどうしたいのかわからない人は、自分のなかの「子どもの自分」と、「おとなの自分」が協調できなくなってしまっていると考えられます。その人の個性や感受性、考え方などを総合したものを「人格」と呼びます。

人格は、多層構造をしていて、核に「本音の自分」があり、それを「表層の自分」が包んでいます。表層の自分とは、成長していく段階で社会の秩序や規律、価値観を身につけ、周囲の社会や他の人に合わせていく自分です。

つまり、本音の自分を「子どもの自分」と呼び、表層の自分を「おとなの自分」と表現できるでしょう。「子どもの自分」は、その人の欲求、感情をむき出しにし、好き嫌いや甘えもそのまま、発揮している状態です。

「おとなの自分」は、子どもの自分を包み込み、だれからも非難されず、世間からはみ出さないように判断や行動をしている自分です。

精神的に健康でバランスのとれた人間になるには、「子どもの自分」と、「おとなの自分」が伸よく、協調している状態になることが大切です。

自分を抑える自分

うつになったり、気分障害に悩まされたりしている人は、「子どもの自分」が必要以上に押さえ込まれていたり、「おとなの自分」が「子どもの自分」をうまくコントロールできないでいる人です。

たとえば、公共の場でバカ騒ぎしたり、周囲を不快にさせるような人は、「子どもの自分」がはみ出してしまっています。逆に、いい人すぎてハメをはずせない人は、「おとなの自分」が強すぎて、「子どもの自分」が息も絶え絶えになっています。

うつ症状に悩む人の中には、「なぜ、この人がうつなのだろうか? 」と思えるほど、ニコニコと笑顔が絶えない人もいます。しかし、その笑顔は要注意です。
それは、「人と接するときは必ず笑顔で」と刷り込まれた結果、腹が立っていようが、苦しかろうが、泣き出したかろうが、笑顔になってしまっているからです。

「おとなの自分」が「子どもの自分」を完全に押え込んでいる。こんな状態を長く続けていれば、精神がバランスをくずすのは当然です。
うつになりやすい人は、なによりもまず、「子どもの自分」の息を吹き返らせ、伸びやかに解き放ち、そのうえで、「おとなの自分」との調和を図るようにします。

自分のことは大好きですか?

幼いころ、怖いことや不安なことに出合うと、お母さんのところに飛んで帰り、お母さんが「大丈夫よ」といってくれると、それだけですっかり安心していました。
そんなイメージで、自分に「大丈夫」と話しかけましょう。自分の姓ではなく名前を、あるいは、自分の幼いころからの愛称で、自分に話しかけます。

「大丈夫!大丈夫!」と話しかけます。「なにが大丈夫なんだろう」と思う人もいるかもしれません。理由などいりません。とにかく、「大丈夫!大丈夫!」と、実際に声に出して語りかけるのです。

次は、自分が自分をいつも大好きで、応援していることを伝えます。心の奥底から気持ちを込め「大丈夫!」という練習をくり返します。これについては、初は冷やかな人もいます。「バカバカしい」といわんばかりの人もいます。

でも、とにかく、「大丈夫!大丈夫!」とくり返し、いうのです。5分間に1回くらい、ひたすら「自分のことが大好き」をくり返します。
生活のなかで、いつも思い出していうことが大切です。最初は気恥ずかしさがあるかもしれません。でも、くり返しているうちに慣れてきて、心の奥に火が灯ったような温かさを感じるようになってきます。

自分が大好きとくり返すのは、自分の本音を取り戻すための具体的な方法の1つです。専門的にいえば、自分を見る目が間違っていたという「認知のゆがみ」に気づくための行動です。
声に出していうのは、言葉の力を利用したいからです。恥ずかしいからと、頭の中でをくり返しても、効果はかなり薄くなります。

うつの方はまじめで、「1 日に100回いうようにということでしたが、昨日は9回しかいえませんでした。大丈夫でしょうか」と、律儀に数えている人もいます。でも、いうまでもなく、1日100回は目安。もっとアバウトにかまえ、できるだけ頻繁に自分に「だ大好き」と声をかければいいのです。とにかく、実行しなければ始まりません。さっそく、自分のことを「大好き」といってみましょう。

子供の自分にあやまる

「もうわけがわからないんです。自分がなんなのか? なんのために生きているのか。それを考えるのさえつらい」と、ほとんど泣きながらいっている方がいました。

そのとき私がおすすめしたのは、「子どもの自分」に、「いままで押えつけていてごめんね」とあやまる方法でした。そういう人は、子どもの自分の存在を無視し、抑圧し、子どもの自分の存在すら認識できません。本音の自分、つまり子どもの自分が「なにが好きなのか」「なにをしたいのか」すらわからなくなっているのです。

だから、自分に対して「大好き」ということができないのです。それほど、自分の本音を押し殺して生きてきたのです。ですから、そのことを、まず自分自身に心からあやまることから始めましょう。

うつ傾向かどうかを見分けるポイントの1つに「別にい」症候群があります。「なにを食べる?」と尋ねられて「別にい」、「あの映画おもしろかった?」と開かれて「別にい」。相手をバカにしているわけではなく、本当に「どうでもいい」と放り出してしまっている症状です。

それはそれで、苦しいものです。こうした人にも、無視してきた「子どもの自分」に率直にあやまることをおすすめしています。と何度も何度も、声に出して謝ります。異常な光景だと思いますか?そうではありません。縮こまって震えていた「子どもの自分」が、ちらりとこちらを見てくれて、にっこり笑ってくれたとイメージしてみてください。ジワッと温かいものが体の奥に広がっていくような感じがしてきませんか?
そういう感覚を感じられるようになるまで、「無視してきて、ごめんね」と毎日 謝ることを続けてみてください。

うつの方の心のなかには、自分自身に対する憎しみ、うらみ、自己卑下など、自分に対する屈折した思いが、ごつたになってたまっていて、それは、あたかも火山の奥底のマグマのようにどろどろしています。

そんな自分に対して屈折している状態のところに、いきなり「大好き」と声をかけても、うまく伝わっていかないのです。だから、まず、それだけいじめてきた本音の自分に謝るのです。
そして、謝るときも、「ダアアアイ好き」というときも、頭からいい聞かせるようないい方や、「謝ってやっている」という上から目線ではなく、そばに座ってあげて、本音の自分の寂しさやつらさを、心からわかってあげる気持ちで、「寂しかったね。ごめんね」といってあげるのです。
自作自演でなんの効果があるのだろうと思う人もあるかもしれません。実は、自作自演だからこそ、効果があるのです。自分が完全に自分自身を受け入れ、自己受容のできる自分になるのが目的だからです。完全な自己受容があって初めて、精神的な自立ができるのです。