やり場のない「怒り」のやり場をつくる

2020/11/04

仕事をしていれば、不平不満を言いたくなる場面は無数に訪れます。もっと簡単に「腹の立つ瞬間」と言い換えても構いません。「いらっ」とくることも「むかっ」と来ることも数えきれません。

しかし、その瞬間の感情にまかせて怒りや不満を爆発させるのは、人間関係という意味でも、健康を維持するという面においても得策ではありません。

イライラ
イライラ

また、その場限りの感情をぶつけることは自分にとっても最終的に不利益になることが多いでしょう。

そこで提案したいのが「不平不満も計画的に言う」という習慣です。読んで字のごとく、怒りや不安、不平不満が沸き起こった瞬間に「その思いや内容」を吐き出すのではなく、一旦それを吟味して「いつ、どこで、どのタイミングで、どんなふうに不平不満を言うのか」という計画を立ててから実行するという方法です。

この「ワンクッション」を置くことができれば、とりあえずは交感神経が跳ね上がった状態で不平不満を言うことはなくなります。

1日の最後に「吟味の時間」

本当にそんなことができるのでしょうか?さあ、ここからが具体的な方法です。「不平不満は一旦吟味して、計画的に言いましょう」と言われて、「なるほど、これからはそうしよう」とすんなり受け入れられる人はそうはいません。

たいていの人は感情的になれば「それができないから苦労するんだ」と思うでしょう。気持ちはものすごくわかります。

腹の立つことに直面したとき、どうしてもその怒りを「その場で」処理したくなります。芽生えた怒りを放出しないと、やり場のない怒りがふつふつ沸々と自分のなかで煮えつづけてしまうからです。怒りのコントロールというのはとても難しいものです。

そこで「やり場のない怒り」の「やり場」をつくってしまうという方法す。

やり方はとても簡単です。1日の終わり、仕事が終わる少し前に「吟味の時間」を設けてしまうのです。「吟味の時間」とは「どんなふうに怒りや不平不満を相手に伝えるか」を計画すWる時間のこと。

ものすごく単純な発想ですが、これが意外に感情抑制に効果的です。たとえば、部下がミスをして一気に怒りが沸き起こったたとします。あるいは、何か問題が起こり、心のなかに不安が広がったとします。

このような事態が起こったとき、私たちは「ゴール」(落としどころ) が見えないことに大きな不安を覚えます。「やり場のない怒り」「見えない不安」というヤツです。

その不安定な状況によって、私たちの自律神経は乱れ、血流が悪化してしまいます。すると思考の質が下がり、感情のコントロールがきかない状態のまま、問題に向き合わなければなりません。

しかし、そんな状態で問題に向き合っても、解決策が見つからないどころか、さらに感情が高ぶるばかりです。まして、40代、50代の副交感神経が低下しやすい年代ならば、副交感神経副が下がってしまうと3時間は回復しません。

1つの小さなトラブルが、その日の半分を台無しにしてしまうのです。そんな落とし穴にはまらないためにも、「とりあえずのゴール」を設定してしまう。それが1日の終わりにやってくる「吟味の時間」です。

部下がミスをして「なんだよ!」とあなたは思う。でも、その瞬間に「この間題をどうするかは『吟味の時間』に考えよう」と決めてしまうのです。

人間の思考とは不思議なもので、とりあえず決めてしまえば、一旦は思考を停朋止することができます。言い換えるなら、自律神経が乱れていくのを一旦止めることができるのです。

問題には冷静な頭で向き合う

吟味の時間」で問題にどう向き合い、どう処理していくかは、もはや重要ではありません。その頃には自律神経のバランスも整い、血流も良くなっているはずなので、その状態でベストな方法を考えればいいだけです。

それでもなお伝えるべき不平不満があれば、「誰に、何を、どのタイミングで、どんなふうに伝えるべきか」、もっとも効果的な方法を冷静な頭で考えてください。

経験上、問題を後になって振り返ると「自分にも問題があったな」とか自省することもしばしばです。

実際にあった些細な例を紹介すると、あるとき私に来客があったので「コーヒーを3つ、紅茶を1一つ買ってきてください」と助手の方にお願いしたことがありました。コーヒー3つと紅茶1つ。じつに簡単なお使いです。ところが、彼が買ってきたのはコーヒー4つ。

その瞬間、「いったい何を聞いていたんだ!」「そのくらい小学生だって間違わないぞ」と、以前の私なら、その場で怒りを爆発させていたかもしれません。

しかし、その場で言うのはあまりに大人げないし、来客にも嫌な思いをさせてしまう。そうやって、問題を「吟味の時間」に放り込んでしまうのです。そして、時間を置いて考えてみると、「彼を信じた私に非がある」と思えてきてしまうもの。

すべ.ての基本は「Don’t believe anybody」なのですから。その大原則を私がきちんと理解していれば、もっとしっかりと彼に伝わる言い方をしたでしょうし、メモを渡すこともできたかもしれません。

いちじばんに些細な出来事ですが、世の中とは一事が万事こんなものではないでしょう。その教訓は私が次に生かせばいいことで、もしその場で彼を怒鳴りつけたとしても、決して良い結果を生むことはなかったでしょう。

普通に生活していれば、怒りや不満を覚えることは数限りなくあります。ですが、その感情を爆発させたところで、たいていの物事は解決しません。それどころか、事態は悪化し、周囲の空気は悪くなり、なにより自分の健康を損ないます。

だからこそ、怒りや不満が沸き起こつたら、その場では黙り、とりあえず「吟味の時間」に放り込んでしまってください。その後「1対2の呼吸」を2分ほどして、水を飲んで、場合によっては空を見て、何事もなかったかのようにやり過ごしてください。

なによりも大事なのは、自律神経を乱さないこと。そして、悩みや問題は自律神経が整ってから向き合うこと。これこそもっとも合理的な「問題との向き合い方」であり、感情のコントロール法です。そしてこれこそ「ゆっくり生きる」極意なのかもしれません。