幸せの芽が出やすい人、枯らしてしまう人

「出来る」「大丈夫」という信号を自分自身に送り続ける

枯れてしまった植物の鉢植え。もうダメだと思って諦めてそのままにしておいたのに、ある朝、気づいたら小さな緑が芽吹いていて、嬉しかったという経験をしたことがある人も多いでしょう。

ヨーロッパでは、植物を育てるのが上手な人のことを「緑の指を持っている」というおもしろい呼び方をします。幼い頃のお気に入りの童話にも『みどりのゆび』というのがあって、その主人公のチトという小さな男の子は、目には見えないところに隠れている植物の種を見つけて育てる名人。

親指が種に触れる上、五分もたたないうちに芽吹いて花が咲くのです。そんなわけで、悲しい気持ちをかかえた人に出会うたびに、チトはそっと親指をそこらじゆうに押し当てます。

たとえば、病院、貧民街、刑務所…。チトが帰ったあとには不思議なことに緑と花があふれ、人々は幸せを感じ、生きることが楽しくなるのです。最後には、お父さんの鉄砲工場にしのび込んで、鉄砲を使えないように植物でぐるぐる巻きにしたり、大砲から花束を打ち出させて戦争をやめさせてしまう、そんなストーリーでした。

少し前置きが長くなりましたが、人生の幸せや喜びは、この植物の種のようなもの。日常生活のふだんは気づかないようなところに「種」はひそんでいるのだと思います。

人に親切にされたとき、美しいものに出会ったとき、おいしいものを食べたとき、たいしたトラブルもなく仕事が一段落したとき、ゆったりとくつろぐ時間が持てたとき…

これらはみんな幸せの「種」です。それに気づいて「あ~ 、幸せだなぁ」と感じることができるのが、「緑の指」の持ち主だと言えるのでしょう。

なんでも食べられる、よく眠れる、どこも痛くない、生活に困らない、などということを、あたりまえだと思ってはいませんか?

毎日のように報道される恐ろしい事件や悲しい出来事を見聞きするたびに、そんなことに巻き込まれた方を心からお気の毒に思うと同時に、私は「平凡だけれど無事に過ごせた1日」をとても幸せに感じます。ほんの少しのことでも「喜んだり、幸せを感じたりするクセ」を心につけること、これが大切なのです。

「バカらしい、この忙しいのに、いちいちそんなに喜んでいられないよ! 」「そんなことで幸せと思えるほどおめでたくないよ」とお叱りを受けそうですが、でも、素直に信じて実行できる人が、より大きな喜びや幸せをつかまえることができるのです。

ある本を読んでいて、こんな素晴らしい言葉にめぐりあいました。「人は心1つで幸せになることができる。

心の中の幸せが外に伝わっていく。幸福を自分の外に求めるな。幸福は自分の中に見つけよう。光源は我が心の中に灯せ。心に太陽を持つ人は人生の音楽を楽しく奏でることができる」幸せを感じられる心の持ち主になることは、周りにも幸せの種をまき育てることになり、それが自分の人生をも豊かなものにするのです。

また、「喜びや幸せを感じるクセをつける」ことは、単なる精神論ではありません。大脳の一部には「視床下部」という小さな突起があって、心とからだのセンサーの役目を果たしています。ここで、わたしたちが瞬間的に感じるコワイ! マズイ! イタイ! ステキ! 、気持ちイイ! などの情報をキャッチして大脳に送るのです。

その情報を受けとって、それではどうしようか、と考えるのが大脳の役割。いつも不平不満、緊張感、不安感を抱いていると、頭の中にランダム波がおきて心の中がささくれだったようになるため、より一層ストレスを受けやすくなるのです。

ところが、幸せや感動、喜びを感じているときは、心がとても安定し、その結果として生理的にもよい影響が表れてきます。

マイナスの情報は視床下部でストップさせる、つまり、大脳へマイナスの信号を送らせないよう、「だいじょうぶ、うまくいく」と思うことです。そして、いつもプラスの情報を大脳に送り続けてやることは、心因性が多い消化器系や循環器系の疾患などにも、きっと効果があるはずです。

日常の喜びや小さな幸せに敏感になり、できるだけ見つけるようにしていると、苦しさや不快なことには動じなくなる、というおまけまでつくのです。

たとえば出勤途中の満員電車。イヤだ、イヤだと思いながら時間を過ごすのと、もしも車内で隣りにあなた好みのタイプの女性がいたら「今日はなんてツイている1日のスタートなんだ」と思うのとでは、その日1日が変わってくるから不思議です。

大脳は同じ刺激にとても弱いので、喜びや幸せをいつも感じるようにクセをつけると、潜在意識にインプットされて、それがだんだん性格をも変えていきます。

はじめは抵抗感があっても、ぜひチャレンジしてみてください。幸せ探しの名人になる「緑の指」を持つのか、それとも芽吹いたばかりの幸せのきざしに気づかないまま枯らしてしまう「灰色の指」の持ち主のままでいるのか? 選ぶのはあなた自身なのです。